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不動産登記法大改正を総括する

平成17年8月2日

去る3月7日から改正不動産登記法*1 が施行され5ヶ月近くが経過し、登記実務のみならず不動産・金融取引実務にも少なからぬ影響を与えると共に様々な疑問点も発生し始めております。これまでセミナーや諸媒体でこの点につきまして解説して参りましたが、本日は総括としてそれらのレジュメ、原稿に「ビギナー編」として不動産登記の基礎的知識についての簡単なレクチャーを加えたものを掲載いたします。


〜ビギナー編〜

1. 不動産登記とは
「登記」とは様々な社会生活や経済活動上の目に見えにくい事柄をよく見えるように「登記簿」*2 というスクリーンに映し出し公開(公示)する仕組みです。ディスクロージャーとしての意義と、公示することにより特別な効力が与えられ、取引の安全を図るという効果が与えられています。
不動産登記は不動産(土地と建物)の権利関係(誰が所有者か、担保権その他の制限は付いていないか等)という目に見えないものを目に見えるように映し出す(公示する)ものです。登記することによって、権利取得を確実にする効果(対抗力*3)が与えられます。
不動産を売買したときは必ず登記(所有権移転登記)を行いますが、これは登記の対抗力により、例えば他にその不動産を買ったと主張する者が現れた場合でも自己の所有権を主張することが出来るようにするためです。
登記完了後に登記がされたことを証明するために所有者にだけ渡される証明書がいわゆる「権利書」です。

1.平成16年法律第123号。4月に一部改正が成立・公布されました(筆界特定制度、平成17年法律第29号)が、これはまだ施行にはいたっておりません。
2.コンピュータ化されたものでは「登記記録」
3.第三者に対して自己の権利を主張できる効力

不動産登記の他、身近な登記制度として会社や各種法人の内容を映し出す商業登記制度・法人登記制度があります。
これらの「スクリーン」はいわゆる「登記所」(正確には「法務局」という役所)に備えられており、その内容は登記所に行ったり、インターネットで見ることが出来ます。また、登記の内容を公的に証明する書面も発行してもらうことができます(登記簿謄本・登記事項証明書)。いずれも有料(1件につき500円〜1000円程度)。

2. 不動産登記「法」とその改正とは?
不動産登記法は、不動産登記の手続き、すなわち前述した権利関係等を「スクリーン」に映し出したり、それを見たり、証明書をもらったりする方法を規定した法律です。今回、この法律に関して不動産登記制度始まって以来の大きな改正が行われました。その趣旨は後述する通りですが、主眼とするところは登記のコンピュータ化をすすめ最終的には登記申請(スクリーンに映し出すように依頼する)をオンライン化するという点にあります。それにともなって様々な制度改正が行われたわけです。
ここで一つ強調しておきたいことは、この制度改正があくまでも国民の利便のために行われたものであるという点です。法律は国民生活に奉仕するためのものですからそれは当然なのですが、改正によって却って不便になるようなことがあってはいけないのです。もちろん便利になれば危険も増大しますから、危険防止策をとる必要はありますが、それは往々にして利便性と相反するものとなります。安全のため止むを得ないものであれば許容できますが、制度のための制度となっている嫌いがないか、私達専門家は運用の仕方を含め常にその点を注視し続けていく必要があると考えています。
今般の大改正は、次の二つのコンセプトに基づくものといえます。
I. 国民の利便性の向上=高度情報化社会にふさわしい登記制度とする。
「e−Japan構想」の一環として登記の申請手続きをインターネットを利用したオンラインで行う事ができるようにするというものです。
この理念に基づく制度としては、オンライン申請の他、出頭主義の廃止、保証書制度の廃止、登記済証の廃止、予告登記の廃止、法律の全体構成の変更、不動産の特定番号の導入等があります。
II. 国民の権利の保全=登記の正確性の確保
利便性の向上のための制度変更により登記の正確性の確保が犠牲とされ、虚偽登記や詐欺的不動産取引・金融取引が発生する危険が増大するのを防止するというものです。いわばセキュリティの確保です。
この理念に基づく制度としては、登記原因証明情報の添付、登記官による本人確認制度、事前通知制度及び資格者代理人による本人確認情報提供制度、登記済証の廃止、原本還付制度の変更等があります。

3. 不動産登記の「コンピュータ化」とは
「コンピュータ化」自体は既にかなり進められており、皆さんの目に触れる「スクリーン」も紙ベースの「登記簿」よりはコンピュータを介して目にする「登記記録」(登記情報)の方が多くなっていると思いますが、簡単にご説明いたします。
@ 「コンピュータ化」
従来紙の登記簿に記載されていた登記をコンピュータで処理するということです。既に導入され始めて10数年が経過し、大半の登記所ではこのシステムが導入されております(2007年度には全庁導入予定)。この意味でのコンピュータ化(デジタル化)は登記簿だけでなく法務局に備えられている地図・公図についても進められております。
これにより、後述する「オンライン化」や「登記情報交換システム」が実現したということが現時点での最も顕著かつ画期的な効果であるといえます。
尚、従来「登記簿謄本」「登記簿抄本」と呼ばれていたものが「登記事項証明書」と呼ばれるようになり(各種機関や勤務先等への提出書類として未だに「登記簿謄本」としか説明されていない場合がありますが、「登記事項証明書」も同じ扱いです)、紙の登記簿がないので「登記簿の閲覧」が出来ず「登記事項要約書」が発行されるようになったというような相違もありますがこの点も随分浸透していると思います。
A 「オンライン化」
インターネットによって登記の内容を見ることが出来る(ハードコピーも取れます)ということです。
個人でもクレジットカード決済で利用可能です。但し先述の提出書類として「登記簿謄本」「登記事項証明書」とされている場合にはこのハードコピーでは不可です(法務局へ出向くか郵便で請求しなければなりません)。また利用時間も平日の8:30〜19:00です。地図(公図)は現時点では対象となっていません。正式名称は「登記情報提供サービス」。詳細は下記URLまで。
http://www1.touki.or.jp/
B 「登記情報交換システム」
同システムが導入されている登記所間において,他の登記所管轄の登記事項証明書及び印鑑証明書(法人代表者)の交付を受けられるものです。
例えば東京法務局(出向く必要はある)で札幌の不動産や会社の登記事項証明書や印鑑証明書を取得することができます。これは先の「提出書類」として利用できます。
以下、「上級編」として主な変更点について具体的に見て行きましょう。

〜中・上級者編(主要改正点)〜 

1. オンライン申請制度とは
先にご説明しました「オンライン化」というのは、情報の取得方法としてのものだけでしたが、「オンライン申請」とはインターネットを利用して、自宅やオフィスのパソコンからオンラインで登記の申請手続きができるシステムを導入するものです。
〜オンライン申請の方法〜
@書面を提出する代わりに一定の必要事項(申請情報)をインターネットを介して送信する
Aそれだけでは内容(データ)の改ざんや「なりすまし」の恐れがあるので、次の方法によりそれらを防止する。
イ.登記制度独自の本人確認手段=登記識別情報の提供(又は事前通知若しくは資格者代理人による本人確認情報の提供)・・・後述します
ロ.電子署名(データを暗号化する)及び電子認証(暗号を解く鍵が本人のものである事を第三者が証明する)の利用。
u 例えば、所有権移転登記の申請であれば、従来は申請書+権利書+印鑑証明書+住所証明書+委任状を法務局に持参したが、オンライン申請では暗号化された申請情報+暗号を解く鍵(公開鍵)+電子認証+登記識別情報+住所証明情報(又は住民票コード)+代理権限情報をインターネット経由で送信することになる。操作感としてはネットバンキングやネットショッピングなど、サイトにログインして情報を入力・送信するというシステムに類似。
 尚、登録免許税は、申請後にネットバンキングやATMからの納付により、電子納付することになる。
 手続きの概要及び詳細については法務省の下記各サイトを参照の事。
http://shinsei.moj.go.jp/
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji72.html
u オンライン申請は普及する?
全ての登記所でオンライン申請が一斉に可能になったわけではありません。
現在オンライン申請が可能な登記所(オンライン指定庁)はさいたま地方法務局上尾出張所(3月22日指定)と長崎地方法務局佐世保支局(7月25日指定)のみです。その後順次増え今年度中には全国の1割強に、そして数年で全ての法務局が指定される予定です。
また、オンライン申請は義務ではありません(そもそも不動産登記 自体が義務ではありませんが)。国民の利便のための制度ですから、その選択に任せられるのは当然で、従来の申請方法(紙の申請書を持参又は郵送)を取ることも当然可能です。従ってオンライン申請が普及するかどうかは、利便性次第です。
手続き負担・コストの増大とその削減の比較考量という事になります。
イ. 手続き負担・コストの増大;システムの利用の前提として当事者双方について電子認証などの事前手続が必要となる。法人=電子認証登記所電子証明書又は特定認証業務電子証明書/個人=公的個人認証サービス=住基ネットに基づく個人認証。
ロ. 手続き負担・コストの減少;申請手続き費用の削減
コストだけを見れば、オンライン申請による削減効果(利用者の負担)は見込まれるといえるでしょう。しかし個人にとって選択基準はコストだけではありません。ネットのセキュリティそのものに対する信頼性が問題にされるということも大いに考えられます。
もっとも大半の個人にとって、登記というものは日頃なじみのないものであり(よく理解できないままに専門家にお任せで手続きしている )、登記申請の方法にまで関心を持つことは殆んどありませんが。私達司法書士は登記制度の運用を担う立場から、またコスト面から、オンライン申請を推奨するということになるでしょうか(もちろん手数やネット経由であるという点を説明した上で最終的には当事者の選択に任せられることになりますが)。

2. 出頭主義の廃止(郵送申請の許容)
旧法では原則として申請人(代理人)が法務局まで現実に行かなければなりませんでしたが、新法ではオンライン申請を認める以上、出頭を不要としなければならないのは当然です。
従って郵送での申請も全ての登記について可能になります(今まで出来なかったのが不思議なくらいですが)。しかし、登記済証の受領は出頭の必要があります。郵送のリスクを負担するのは利用者サイドのみ、ということです。

3. 登記原因証明情報の提供
改正前も「登記原因を証する書面」(売渡証書や抵当権設定契約証書等)を添付する申請はなされてきましたが、この添付は必須ではありませんでした。改正後は相続、時効取得、真正な登記名義の回復、錯誤など法律行為によらない登記原因も含め原則すべての物件変動の登記について「登記原因証明情報」の提供が必要となりました。
これによって登記内容の正確性を確保するという趣旨です。

〜登記原因証明情報の内容〜

登記の原因となる事実又は法律行為及びこれに基づき権利の変動が生じたことを内容とする。売買であれば売買契約の他これに基づき所有権が移転したことまでが内容となります。
もちろん改正前に一般的に「登記原因を証する書面」として用いられていた(根)抵当権設定契約書や売渡証書で十分です。
但し、個人情報保護法との関連からこの取り扱いは注意を要します(後述)。
売買契約に関しては、従来から売買契約書そのものを登記原因証書として用いることはありませんでした。これは通常の売買契約書には所有権移転の効力発生の事実(及び時期)が記載されないからということの他に、売買代金等の情報が外に漏れることを回避するという意味もあったと思われます。
そのため、改正前も売買契約書とは別に登記用に「売渡証書」を作成・添付するという方法が用いられて来たわけです。
もっとも、登記原因証明情報は登記義務者が当該情報の内容を認めたことがわかればよく、義務者(売買の場合の売主、担保設定の場合の担保不動産所有者)だけが署名捺印する所謂「差し入れ方式」の書面でよいものとされています。
要するに実際の契約書の添付は求められておらず、謂わば「作文」であってもよいわけです。もちろん司法書士が作成する場合は実体関係を十分調査確認した上で作成するわけですが、これは今までも売り渡し証書や登記委任状の作成の際に行っていた作業であり、要は、司法書士が関与する場合に関しては、この書面の添付による「セキュリティ強化」の効果はさほど大きくはないのではないでしょうか。書類が一つ増え、コストは増大しますが。
もちろん今まで任意であったものが必須になるということで、虚偽登記が発生するという「形式的危険性」は減少するといえるでしょうし、虚偽登記という犯罪(文書偽造・公正証書原本不実記載)を抑制する効果(偽造する書類が一枚増えるという事で)を期待しているのかも知れませんが。
u 個人情報保護法との関連
去る4月1日から個人情報の保護に関する法律が本格施行されました。これに伴い個人情報取扱事業者 は、個人情報の取得・利用・管理・提供につき制限を受け、違反した場合は制裁(罰金または過料)を受ける事になります。
不動産登記手続きの場面でも当然個人情報が取得され法務局その他に提供される事になるため(さらに登記の申請情報及び添付情報は一定期間法務局内に保存され、制限つきではあるが公開されることになる)個人情報保護法の規制に沿った取扱をすることが求められます。
前段で述べた「登記原因証明情報」について、(根)抵当権設定契約書をそのまま提出するかどうかの取り扱いも金融機関によって異なっています。設定契約書等には、登記によって公開されることを予定していない情報(返済条件や保証人など)が含まれるためですが、添付の有無に関わらず、無用な紛争を避けるため(登記委任をしている以上は登記される情報の公開を認容していると解して良いでしょうが)提供された個人情報を法務局に提出することについて、書面で個人情報を利用・公開することについて確認しておくべきでしょう(同意書、承諾書)。

4. 保証書制度の廃止とそれに代わる本人確認手段
従来、権利書(登記済証)が添付できない場合に用いられていた保証書の制度は安易に利用されがちで虚偽登記を招く危険性があった半面、適切な保証人を見付けることが難しいなど申請人の負担になっていたため廃止され、代わって「事前通知制度」及び「資格者代理人による本人確認制度」が創設されました。
「事前通知制度」とは、申請書(申請情報)に権利書(登記識別情報)が添付できない場合に登記官が登記義務者(売主)に対して当該登記申請があった旨及びそれが真実である場合には一定の期間(原則通知を発してから2週間)内に申し出る旨を通知し、その申し出がなければ却下するという制度です。
この制度で、旧法の保証書と同じように申し出と引き換えに決済するというパターンですと、売買代金が支払われる前(所有権が移転する前)に移転登記(本受付。旧法だと仮受付)を申請することになります。借入れがある場合は申し出後に融資を実行し抵当権設定登記を申請することになり、移転と設定の間があいてしまうことになり、間に別の担保権設定や処分制限(差し押さえ等)の登記がされる危険性が出てきますが、先の移転登記の受付により登記簿(登記記録)はロックされ、登記内容の確認が出来なくなってしまいます。これを避けるために所有権移転と同時に抵当権設定登記を申請するとなると、融資実行前に抵当権設定登記を申請することになってしまいます。
このように実際の取引に関しては(現金決済や親族間・グループ会社間等登記権利者義務者間に特別な信頼関係がある場合を除いて)事前通知制度は不都合が多いため、「資格者代理人(司法書士・土地家屋調査士・弁護士)による本人確認制度」を用いることになると思われます。実際のところ幣事務所で取り扱っている案件も大部分はこの制度が利用されております。
「資格者代理人による本人確認制度」は、司法書士等が、当該登記に関し売主の本人性や売買・担保提供の意思に間違いが無いかどうかなどを厳密かつ総合的に調査確認した報告書を添付して登記申請している場合には、事前通知を省略するという制度です。この制度の導入により、権利書がない場合でもスムーズな取引が可能となります。
尚、公証人による認証を受けるという方法もありますが、コスト面、手続き負担面からは資格者代理人の本人確認制度が多く利用されることになると思います(費用額など不明な点も多く、今後の検討を要しますが)。もちろん司法書士は職責として本人確認制度の運用を適切に行う責務を負いますが、正直なところ公証人の先生方にその一端を担って頂けるということであれば、登記法の改正により増大した司法書士の負担は幾分かは軽減されるとは思います(国民の利便のためにどちらが良いかとはまた別問題ですが)。

5. 登記官による本人確認制度
登記官は申請人となるべき者以外の者が申請していると疑うに足りる相当な理由があると認めるときは申請人、代理人に出頭を求め質問をしまたは文書の提示その他必要な情報の提供を求める方法により、当該申請人の申請権限の有無を調査する権限と義務を与えられました。
申請人が本人かどうかは登記官の審査の対象となっていましたが、出頭主義が廃止されたため、確認手段として一定の場合に出頭を求める等の方法によることを認めたものです。
例えば警察や当事者からの通報により申請人に成りすまして不正な登記の申請がされていることが判明した場合、審査の過程で偽造権利書や印鑑証明書の添付があったなど不正事件が発覚した場合等です。

6. 「権利書」の廃止
はじめに(ご質問の多いところですので)申し上げておきますが、現在不動産所有者の方が保有されている「権利書」(所有権登記済証)の効力は法改正後も何ら変わることはありません。不動産を所有し続ける限り永久に有効です。
つまり現在の権利書が廃止されるのではなく、オンライン指定庁になると、新たに登記名義人となった者(買主や担保権者)には、登記済証(「権利書」の他、設定契約書に「登記済」印の押されたもの等)は発行されなくなるということです。代わりに、その者を識別するための「登記識別情報」(英数字12桁の組み合わせのID・パスワードのようなもの)が通知されます。次回その者が登記義務者として登記を申請する際(売却や担保抹消)、現行の登記済権利証に代わり登記識別情報を提供する必要が出て来ます。
登記済証はオンライン申請になじみませんし、偽造される危険性も(近年富に)あったため廃止され、それに代わる登記制度独自の本人確認手段として設けられたものです。

(法務省ホームページより)
しかしこれはまさしく暗証番号やパスワードと同じで、他人に知られてしまっては非常に危険なことになります。
「数字とアルファベットの組み合わせである『登記識別情報』は、原本性・唯一性がなく、物理的な保管が困難で、紛失・忘失の可能性が高く、かつ、コピーや不正使用も容易である。したがって、『登記識別情報』は、本人性及び登記申請資格・申請意思を確認するための機能の面においては、登記済証に比べはるかに劣っているものと言わざるを得ない」(群馬司法書士会の改正案に対するパブリックコメント )。
このため失効させる制度が設けられていますし、初めから交付を受けないことも出来ます。
また逆に取引の相手方(買主や担保権者)からすると、当人が提供する「登記識別情報」が真正かつ有効なものかどうかが重要な問題となります。
登記識別情報は権利書のような「もの」としての存在ではないため、取引に当たって例えば現在事前に権利書の有無や有効性を確認しているのと同様な方法(視認・コピー等)での存否・有効性の確認はできません。
 登記識別情報の有効性の証明の制度はありますが、その請求をできるのは登記名義人(及び承継人)のみであり、証明請求には登記識別情報を添付し、さらに申請書には実印を押印して印鑑証明書を添付(紙申請の場合。オンラインなら電子署名)しなければなりません。
 決済前に登記名義人(売主)からこれらの資料・書類を預かれるのは稀でしょうから、考えられる方法としては売主にこの証明を取得してもらい、そのコピーを提供してもらう(準備開始当初と決済直前の2回)ということになるでしょう。
ただいずれにしても有効証明と決済との間にタイムラグを生じることは否めません。
これらを勘案すると、「登記識別情報」というのは「使えない」という事になる可能性は高いと思われます。現に、交付を受けてもすぐ失効の手続きを取らせると明言している司法書士もおります。
いずれにしましても冒頭に申し上げましたように、現在所持している権利書、並びに新法施行後指定庁になるまでの間に発行された権利書は、オンライン指定がされても、その権利を有している限りずっと有効であり、大事に保管しておく必要があります。

7. 原本還付制度の変更
原本還付制度とは、登記の申請書に添付する書類について、コピーを添付して原本を返してもらう制度です。登記申請書に添付する「印鑑証明書」(申請書、委任状、承諾書に押した印鑑についての)は、個人・法人ともに原本還付ができなくなりました。したがって、印鑑証明書は申請件数分(1人の登記義務者に付き同時に申請する一連の登記ごとに1通)用意する必要があります。
また、当該申請のためのみに作成された書面(委任状、登記原因証明情報等)も原本還付はできなくなりました(包括委任状、設定契約書等は可)。
その他の書類は原本還付できますが、還付されるのは登記官による調査終了後に限られます。これまでのように登記申請受付時に還付して使いまわす方法は認められませんので、新築マンションや建売分譲住宅のように連続した登記が予測される場合は複数枚用意しておく必要があります。これは固定資産評価証明書等の書類でも同様です。

8. 改正によりできなくなった(?)登記
今回の改正で、これまで出来た登記が出来なくなったのではないかと聞かれることがあります。例えば、ある会社が不動産の所有者として、会社名義で登記していたが、実際は代表者個人の所有なので、名義を代表者個人に変更(訂正)したいのだが、そのような登記は出来なくなったといわれた、とか所謂「中間省略登記」が出来なくなったと聞いたとか。
まず申し上げておきたいのは、今回の改正によって変わったのは「手続き」の方法に過ぎず、登記制度の本質が変わったわけでは決してないということです。すなわち、前述しましたように不動産登記制度とは物権変動(売買による所有権の移転等や担保の設定など)という目に見えないものを見えるように映し出すスクリーンに過ぎないということです。その点はいささかも法改正前と変わりません。実体と異なる映像を作り出して映し出すなどという事が出来ないのは当然のことで、それは改正の前も後もなんら変わるところはないのです。
即ち、会社名義が間違っていたとして代表者個人名義に直そうとしたが出来ないといわれたというのは、それがこの場合実体と異なる登記を作り出すことになる、即ち会社が真の所有者であるにもかかわらず、所有者は代表者個人であるという実体と異なる登記(無効)を作り出すことになってしまうからということなのです。
改正によって出来なくなったと言われたのは、改正により登記原因証明情報の添付が必須になり、虚偽の登記原因証明情報(この場合ですと真の所有者が会社であるにもかかわらず代表者個人が所有者であるという「事実」を作り出す)は添付できないからということだと思いますが、改正前でもこの書類をつけるつけないにかかわらず、虚偽の事実を作り出すような登記が認められないのは当然の事だったのです。
この場合、代表者個人が真の所有者であれば、登記上も代表者を所有者とする登記をすることは当然認められます。代表者が所有権を取得したのが、会社名義の登記をした以前であれば、登記を訂正する(実際には一度抹消した後、取得原因に従って売買、贈与等を登記原因とする所有権移転登記をする、または直接「真正な登記名義の回復」という登記原因で所有権移転登記をする)ことになりますし、代表者の所有権取得が会社名義の登記をした後であれば、取得原因に従って売買、贈与を登記原因とする所有権移転登記をすることになります。
「中間省略登記」に関しては項を改めてご説明いたします。

9. 中間省略登記について
中間省略登記は、登記の正確性の確保という要請から法改正により禁止されたように受け取られていますが、実はそうではなく(旧法下でも「禁止」されていた点はなんら変りありません)、先に述べました様に「登記原因証明情報」の提供が必須となったことから、全ての中間省略登記はそこに実体と異なる記載をすることになるため却下されざるを得なくなったということなのです(旧法では実体と異なる登記原因証書をつける必要がなかったため−その他の添付書類には実体と異なる記載をしていたのですが−却下されることはなかった)。
中間省略登記とは、物権変動の過程のうち中間部分を省略してする登記をいいます。最も典型的なものはA→B→Cと順次売買により所有権が移転した場合にA→Cという登記をするケースです。これが実務上行われる事が少なくなかったのは、移転登記の際に課税される登録免許税額が固定資産評価額の1%(売買の場合)という決して低廉とは言えない金額であるため、中間者がこの課税を回避(登記をしなければ納税義務は生じない。法律上の登記義務もない)したいという要請が強かったからです(もちろん対抗要件の取得という不動産登記最大の効力を享受出来ないというリスクを承知の上で)。
とはいえ、実務上は中間省略登記の要請も強く何らかの対応が求められているのが現状です。ここでも私が言いたいことは、先にも述べましたように法律は国民生活に奉仕するものです。登記法も例外ではなく、国民の経済活動に奉仕するものであります。経済活動とは利益の追求を命題とするものですから、コストを削減しようとするのは当然かつ正当な要求です。こういった要求に対しても法律は応えていかなければならないのです。もちろん利益追求とは相反する命題もありえますが、かといって初めに法律ありきの発想で、一律に「ダメ」と拒絶してしまうのは法律家としてもあまりにも怠慢であると考えるのです。この点についての筆者の主張につきましては、住宅新報紙上に発表した拙文をご参照下さい(平成17年1月11日号)。

〜現在主張されている主な方法〜

@ 登記申請書(申請情報)の添付書類(登記原因証明情報)に、A →B→Cの経緯を記載することにより、「中間省略登記」を認める(法務局の取り扱い変更)
A 1件の登記申請に、中間者と移転原因を表示する。例えば登記原因に「平成17年2月1日B売買平成17年3月1日売買」と記載するなど。現在相続では一部認められている手法ですがその他の登記原因に関しては認められておりません。
B 実体関係を修正し、「中間者」への所有権移転が発生しないようにする。AB間を売買予約とし、BからCに予約完結権(買主の地位)を譲渡するというスキームや、ABC三者の間で所有権がA→Cに直接移転するという合意をする等。そのほかにもまったく別の契約形態も検討されております(住宅新報社の「中間省略登記研究会」など)。
いずれの方法も理論的には十分成立する余地はあると考えますが、@、Aは法務局・法務省の取り扱いの変更が必要であり、相当な時間と労力を要すると思われます。ので、即効性のあるものとしてはBの方法がもっとも現実的であろうかと思われます(これはそもそも中間省略ではないということになるわけですが)。筆者もこの方法での対応を検討中で、実際の登記申請にも用いる予定です。@の方法については現在申請中です。詳細はブログ「中間省略登記通信」でBの方法とあわせご報告して参ります。
尚、従前と同様に登記官が形式的審査権しか有しないことから、申請書及び登記原因証明情報に実体と異なる事実(物権変動過程を一部省略した事実)が記載されて中間省略登記(申請手続き上は判明しない)が申請された場合は事実上そのまま登記せざるを得ないと考えられます。そして中間省略によってなされた登記の効力について、旧法下で最高裁判所は実体と一致している以上中間省略によって行われた登記も有効であるとしております。
もちろんこれは登記申請書類に事実に反する記載を行うものですから、司法書士他資格者代理人が関与することは厳に戒められております。
しかし、中間省略であることが添付書面から明らかな場合でも、それが判決である場合には「中間省略登記」を受理するというのが現在の登記実務の取り扱い(法務省の先例)です。当然なされた登記は有効です。

◆法務省の「Q&A」のアドレス:http://www.moj.go.jp/MINJI/minji76.html

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